本研究では自閉症児の親の語りを、自閉症児の親たちの固有の経験として尊重し、親の語りに結びつけて例証することを試みた。ここで明らかにしたのは「自閉症児の子育ての困難」が成立するプロセスは、我が子の具体的な言動をあたかも最初から自明視されていたかのように、「普通とは違う」こととして彼らの親から語られることによって、リアリティを構成していくからだった。親が、我が子の具体的な言動を「普通と違うこと」として語ることによって、段々と「普通と違うこと」は強固になっていく。しかし、自閉症と言う概念は固定化するものではない。
子育てが一区切りついた親にとって、我が子の自閉症という障がいから生じるスティグマは、克服するべきものではなかった。ある母親が「何度も何度も苦しい思いをし、それを少しずつ自分の中で自分のタイミングで消化していかなければならない」と語っているように、今後もその都度対処していかなくてはならない問題なのである。ここで、自閉症児を持つ親の対処という個人レベルの問題から、自閉症という障がいのスティグマ(差別)化という相互行為レベルの問題へと戻さなければならない。なぜなら、自閉症児の子育ての困難は、自閉症児を持つ親だけの問題ではなく、社会全体の問題なのだからだ。これからも、それぞれの自閉症児の親が語るライフストーリーに耳を傾けていきたい。
プロフィール
著者名 渡邉 文春
渡邉 文春(WATANABE FUMIHARU)1959年生まれ
学歴
日本福祉大学福祉経営学部医療・福祉マネジメント学科卒業
松山大学大学院社会学研究科修士課程臨床社会学修了
松山大学大学院社会学研究科博士課程臨床社会学専攻単位取得満期退学
所属学会歴
日本社会学会・日本保健医療社会学会・日本子ども社会学会
関西社会学会・日本質的心理学会・日本応用心理学会
日本オーラルヒストリー学会
資格
(国家資格)
社会福祉士・精神保健福祉士・介護福祉士
職業訓練指導員介護サービス科免許・2級建築施工管理技士
(公的資格等)
介護支援専門員・相談支援専門員・社会福祉主事
(学会認定資格)
日本応用心理学会認定応用心理士
職業
日本福祉大学非常勤講師(社会福祉実習担当)
特定非営利活動法人福祉親愛会(障がい児・者福祉) 理事長
親愛福祉相談所・マミー学園・トミー自立訓練所・トミーワーク
トミーケア・トミーホーム・ブリストミー
ハニーコーポレーション株式会社(高齢者福祉・更生保護事業)代表取締役
ハニーデイサービスセンター・ハニー訪問介護ステーション
住宅型有料老人ホーム「ハニーホーム」・更生保護事業ハニー自立準備ホーム
一般社団法人ラポール 代表理事
住所
〒790-0931 愛媛県松山市西石井1丁目1-25
